アーバンノスタルジーの正体

◎学生時代、東京への就職が決まって、東京に来るのがちょっと怖かった。向井秀徳が歌う冷凍都市的な、ドライなイメージと、知り合いがいない孤独感、あとは自分が果たしてちゃんとしたサラリーマンになれるのかという不安。そんな気持ちがないまぜになった、若者特有の憂いだった。

◎そして来年でついに自分も東京に来て10年になる。東京に知り合いもできて、仕事も多少は形になってきて、結婚もした。当然東京にも慣れてきて、むしろ今では東京がホームタウンのようだ。

◎しかし、時折出張で地方都市に行ったときに感じる、あの人の暖かさは何だろう。三重にいたとき、愛知にいたときには感じなかった、「田舎に来るとホッとする」感覚が、この10年で備わったようだ。

◎ある時ふと、自分は成長して東京に慣れてきたのではなく、単に「冷凍都市」のイチ構成員になってしまっただけなのではないか、と思った。そういえば、学生時代、特に大学時代の自分は、自分で言うのもなんだけど、誰もが認めるいい奴だった。今、自分にそんな印象を抱いている人は何人いるだろう。自分自身さえ、そう思っていないのだ。

◎これは成長なのか。社会に出て、そこそこハードな環境に身を置いて、自己防衛本能の一種として身に着けた性格もあるだろう。でも、なんつーか、これを成長とは呼びたくないし、たかが仕事なんかに振り回されて、自分の性格を変えてしまうのなんて、めっちゃダサい。

◎また、昔の素敵な自分に戻るためにはどうすればいいだろう。大学時代の日記をみてみると、当時は自分の性格、好奇心、友人関係などあらゆることに満足しており、自分で自分に非常に自信を持っていた。今は、そんなの一切ない。

◎環境が変わる中で、変わらずに居続けるのは難しい。というよりむしろ、本来は環境に合わせて変化を続けることは、社会人として必要なスキルの一つである。でもね、自分が大学時代に書いた最後の日記には、「今の自分は最高だから、社会人になってもずっと変わらずにいたい」という決意が述べられているんだよね。これがまたいい文章なんだよ。みんなにも見せてあげたいくらい。

◎10年は一つの区切りだ。原点回帰。次の10年の目標だ。